五十肩とは、どんな病気でしょうか
五十肩は、肩の関節を包んでいる袋(関節包)に炎症が起こり、それがだんだん厚く硬く縮んでいく病気です。医学的には「肩関節周囲炎」「凍結肩(frozen shoulder)」とも呼ばれます。
はじめは炎症が主役の時期で、袋の内側で炎症を起こす物質(サイトカイン)が増え、じっとしていても痛む・夜にうずくといった症状が出ます。時間が経つと、今度は炎症が引く代わりに袋そのものが線維化して縮み、腕が上がらない・後ろに回らないという動きの制限が前面に出てきます。とくに肩の前側にある腱板疎部(けんばんそぶ)という部分や、その中を走る烏口上腕靭帯(うこうじょうわんじんたい)、そして関節包の下のたるみ(腋窩嚢)が硬くなることが、動きにくさの主な原因と考えられています。
以前は「放っておいても自然に治る病気」と説明されることが多かったのですが、近年はきちんと治療しないと動きの制限が長引いたり残ったりする方も少なくないことが分かってきました。そのため、漫然と様子を見るのではなく、時期に合った治療を積極的に行うほうがよいと考えています。糖尿病や甲状腺の病気がある方は、症状が長引きやすい傾向があります。
3つの時期に分けて考えます
五十肩は、大きく炎症期・拘縮期・回復期の3つの時期に分けて考えると、治療の見通しが立てやすくなります。大切なのは、「今どの時期にいるか」で治療の主役が変わるという点です。
| 時期 | この時期の様子 | 治療の主役 |
|---|---|---|
| 炎症期 | 夜間痛・安静時痛が強い。動きの制限が進んでいく | 炎症を抑える(注射・お薬)。無理に動かさない |
| 拘縮期 | 痛みは和らぐが、硬さ(可動域制限)が中心になる | ストレッチ中心のリハビリ。難治例は授動術など |
| 回復期 | 少しずつ動きが戻ってくる | 可動域と筋力、肩の使い方を取り戻す |
炎症期にがんばって動かしすぎると、かえって炎症と痛みを強めて回復を遅らせてしまうことがあります。「まず炎症を鎮めてから、ほぐしていく」——この順番を、患者さんとリハビリ担当者で共有しておくと、治療の方針がぶれずに済みます。
診断と、似た病気との見分け
診断は、お話(病歴)と診察が基本です。レントゲンやエコーは、主に「ほかの病気ではないか」を確かめるために使います。五十肩では自分で動かしても、他人に動かしてもらっても(他動)可動域が制限されるのが特徴で、とくに他動でも外旋(腕を外にひねる動き)が制限されることが手がかりになります。
肩の痛みには五十肩とよく似た病気がいくつもあり、治療法がまったく違うため、最初の見分けが大切です。
- 腱板断裂:自分では腕が上がらないのに、他人が持ち上げると比較的上がる場合に疑います。エコーで腱が切れていないかを確認します。
- 石灰沈着性腱板炎:ある日突然の激痛で始まることが多く、エコーやレントゲンで石灰が見えます(解説ページ)。
- 上腕二頭筋長頭腱炎:肩の前面の溝に沿った痛みと圧痛が特徴です。
- 変形性肩関節症:レントゲンやエコーで骨の変化を確認します。
- 首(頸椎)からくる関連痛のこともあります。
なかなか改善しない難しい例では、MRIで関節包のたるみ(腋窩嚢)や腱板疎部の硬さを確認することもあります。ただし全員に必要な検査ではありません。
エコーで何を見ているのか
エコー(超音波)は、放射線を使わずその場で肩の中を観察できる検査です。五十肩では「ほかの病気との見分け」と「炎症がどのくらい残っているか(=今どの時期か)」の両方を知るために役立ちます。とくに肩の前側にある腱板疎部は情報が多く、注射の狙い所としても重要な場所です。
このほか、関節包の下のたるみ(腋窩嚢)が厚くなっていないか、上腕二頭筋の腱のまわりに炎症や水がたまっていないか、腱板が切れていないか、なども合わせて確認します。血流(炎症)が残っているうちは注射でしっかり抑え、血流が引いてきたらリハビリを強めていく——エコーは、この切り替えのタイミングを見るのにも役立ちます。
治療の進め方
治療は、先ほどの3つの時期に合わせて組み立てます。手術が必要になることは多くなく、大半は注射・お薬・リハビリで改善していきます。
炎症期:まず痛みを抑える注射
炎症期は、関節の中にステロイド(炎症を強力に抑えるお薬)を注射して、痛み——とくに夜間痛を鎮めることを最優先します。夜眠れるようになると生活の質が戻り、その後のリハビリも進めやすくなります。エコーで針先を見ながら行うと、狙った場所に確実に薬を届けられます。使う薬液や量、注射の経路(前から/後ろから)は症例により調整します。糖尿病のある方では、注射のあと数日血糖が上がることがあるため、あらかじめお伝えしています。効果と炎症の残り具合をみながら、間隔をあけて使い、漫然と繰り返すことはしません。
難治例:麻酔をかけて硬さをはがす(サイレント・マニピュレーション)
リハビリや注射を続けても硬さが取れない場合には、首の付け根の神経に麻酔(腕神経叢ブロック)をかけて痛みを止めた状態で、医師が肩を動かして縮んだ関節包をはがす治療を行います。切開はせず外来で受けられます。手技のポイントは3つあります。硬い関節包を水平内転(腕を体の前を横切らせる動き)から後方の関節包を破断し、続いて外旋・挙上・結帯へと広げていくこと。骨折や脱臼を防ぐために上腕の付け根近くを持って、てこの力を最小限にすること。そして治療後1〜2週間は集中的にリハビリを行い、広がった動きを定着させることです。まれに骨折・脱臼・腱の損傷などが起こりうるため、重い骨粗しょう症がある方などリスクの高い場合は行いません。
すべての土台になるリハビリ
五十肩の治療で、いちばん重要で体への負担が少ないのはリハビリだと考えています。炎症期は痛みの出ない範囲の振り子運動や肩甲骨まわりの体操から始め、拘縮期以降はストレッチと関節包・軟部組織への徒手療法、回復期には肩の腱板や肩甲骨の使い方を取り戻す運動へと、時期に合わせて段階を上げていきます。エコーで動きを見ながら運動を指導する方法(エコーガイド下運動療法)も取り入れています。
参考にした論文・書籍と、患者さん向け資料
※この見出しの下に、これまでの「参考になる論文」「おすすめ書籍」「患者さんへの説明資料(日本整形外科学会・理学療法士協会)」のセクションをそのまま続けてください。
参考になる論文
腱板粗部(Rotator interval)周囲の解剖とエコー所見
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28845477
肩関節内へ前方から注射する際に必要な腱板粗部周囲の解剖がイラストとエコー画像で分かりやすく解説されています。肩関節周囲炎におけるRIのエコー所見(CHLのドプラ+や靭帯の肥厚)についても記載があります。
サイレントマニピュレーション
治療効果、手技について
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39333124
横浜市立大学の宮武先生の論文。サイレントマニピュレーションの治療効果、実施者の手技の習熟度による結果の違いについてまとめられています。習熟度によらず可動域や生活満足度は改善していますが、外旋・結帯の可動域は経験豊富な術者の方が良好な結果となっています。

この文献では最初に外旋して前方の関節包を破断していますが、最近のセミナーでは水平内転で後方関節包から破断する方法が主流になってきています。
合併症
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21397785
肩甲骨関節窩骨折のcase reportです。骨折を作らないために、手技の際は上腕の近位よりを持ちレバーアームを短くすることが推奨されています。

上腕骨近位部骨折や脱臼、医原性の腱板断裂のリスクもあるので十分注意して手技を行う必要があります。
おすすめ書籍
長引く肩痛の患者が外来に来たら

診断、インターベンション、リハビリまで一般的な知識を網羅的に学びたい方におすすめです。
肩関節のMRI 読影のポイントと新しい知見

肩関節周囲炎のMRI所見として、腋窩嚢拘縮と腱板疎部拘縮が紹介されています。全例撮影する訳ではないですが難治例では確認しておきたいですね。
はじめはみんな初心者だった ゼロから始める運動器エコーマスターへの100ステップ

エコーを用いたインターベンションを学びたい方におすすめです。関節内注射、SAB注射、LHB注射、肩甲上神経HRなどが紹介されています。動画付きなので分かりやすいです。
RUSI入門 みえる!エコーガイド下運動療法

エコーを用いた理学療法について学びたい方におすすめです。末梢神経(腋窩神経、筋皮神経、胸背神経など)への徒手療法について紹介されています。
患者さんへの説明資料
日本整形外科学会資料

1枚にまとまっているので持ち帰ってもらう資料として使っています。
理学療法士協会資料

治療の流れについて詳しく説明したい場合におすすめです。







コメント