突然肩が激しく痛んで腕が上がらなくなる『石灰性腱炎』。原因と経過、エコーでわかること、石灰を洗い流す治療までを図解で解説します。
肩の石灰性腱炎
(石灰沈着性腱板炎)
突然の激しい肩の痛み――その原因は、肩の腱にたまった「石灰(カルシウムの結晶)」かもしれません。
この資料では、病気のしくみ、エコー(超音波)検査でわかること、そして当院で行っているエコーガイド下の石灰洗浄治療についてご説明します。
どんな病気?
肩を動かす筋肉の腱(腱板)の中に、リン酸カルシウムの結晶(石灰)が沈着する病気です。最も多いのは腕を持ち上げる棘上筋(きょくじょうきん)の腱です。
石灰がたまるだけでは痛まないことも多いのですが、体が石灰を吸収しようとするときに強い炎症が起こり、「夜も眠れないほどの激痛」「腕がまったく上がらない」という症状で発症することがよくあります。
なりやすい方
40〜60歳代に多く、女性にやや多い傾向があります。使いすぎやケガがなくても起こります。
五十肩との違い
症状は似ていますが原因が異なります。エコーやX線で石灰を確認できれば区別がつき、治療法も変わります。
石灰は「一生もの」ではありません — 3つの時期
石灰は できる → 落ち着く → 体に吸収される という経過をたどります。実はいちばん痛いのは、石灰が溶けて吸収されていく時期です。
自然に治ることも
吸収期を乗り越えれば石灰が消えて治ることもあります。ただし吸収がなかなか進まず、数か月〜数年痛みを繰り返す方も少なくありません。
急性期の激痛には
炎症を抑える治療(注射・お薬)で数日〜1週間ほどで強い痛みはやわらぐことがほとんどです。我慢せずご相談ください。
エコー(超音波)検査でわかること
当院ではエコーを使って、石灰の「場所・大きさ・硬さ」をその場で確認しながら診療します。
痛くない・被ばくゼロ
ゼリーを塗って当てるだけ。放射線を使わないので何度でも安心して経過を確認できます。
動かしながら見られる
腕を動かした時に石灰が骨とぶつかる様子など、「痛みの瞬間」をリアルタイムで観察できます。
硬さまで見分けられる
X線ではわからない石灰のやわらかさ(=吸収期かどうか)を推定でき、治療方針の決定に直結します。
そのまま治療に使える
エコーで針先を見ながら、石灰を狙って正確に注射や洗浄治療ができます(次のページ以降で説明)。
エコーではこう見えます
石灰は超音波を強く反射するため白く光って見えます。硬さによって見え方が変わり、これが治療方針のカギになります。
| 見え方 | 石灰の状態 | 意味すること |
|---|---|---|
| 白い弧+濃い影 | 硬い(チョーク状) | 形成期〜静止期。急がず経過観察や体外衝撃波なども選択肢 |
| 境界ぼんやり・影が薄い | やわらかい(ミルク〜ペースト状) | 吸収期。針で吸い出しやすく、洗浄治療の良い適応 |
| 周囲に血流信号(ドプラ) | — | 炎症が強い時期。痛みのピークと一致することが多い |
治療の選択肢
石灰の時期・硬さ・症状の強さに合わせて、負担の少ない治療から段階的に選びます。
| 治療 | 内容 |
|---|---|
| お薬・安静 | 消炎鎮痛薬(飲み薬・湿布)で炎症を抑えます。急性期の第一歩です。 |
| エコーガイド下注射 | 炎症を起こしている滑液包(かつえきほう)に、エコーで確認しながらステロイド+局所麻酔薬を正確に注射。激痛を早く鎮めます。 |
| 石灰洗浄(穿刺吸引) バーボタージュ | エコーで見ながら針で石灰を洗い流し・吸い出す当院の中心的治療。次ページで詳しく説明します。 |
| リハビリ | 痛みが落ち着いた後、肩の動きと筋力を回復させ再発しにくい肩を作ります。 |
| 体外衝撃波(ESWT) | 硬い石灰に衝撃波を当てて吸収を促す方法。実施施設が限られます。 |
| 手術(関節鏡) | 上記で改善しない難治例のみ。内視鏡で石灰を摘出します。必要時は連携病院へご紹介します。 |
エコーガイド下 石灰洗浄(穿刺吸引療法)
エコーで石灰と針先をリアルタイムに見ながら、細い針を石灰の中に進め、生理食塩水で洗いながら石灰を吸い出す治療です。外来で行え、切開はしません。
こんな方に向いています
- やわらかい石灰(吸収期)がある方 — 最もよく吸引できます
- 注射やお薬でも痛みを繰り返す方
- 手術は避けたい方
硬い石灰の場合
吸い出しにくいときは、針先で石灰に細かく穴をあけて砕く処置(ニードリング)を行い、体の吸収を後押しします。
石灰洗浄 — 当日の流れと注意点
当日の流れ(外来・約15〜20分)
- エコーで石灰の位置・硬さを最終確認し、刺入ルートを決めます
- 皮ふを消毒し、局所麻酔をしっかり効かせます
- エコーで針先を見ながら石灰内へ針を進めます
- 生理食塩水を出し入れして石灰を洗い、白く濁った液を吸引します
- 最後に炎症を抑える薬(ステロイド)を滑液包に注入して終了です
治療後の注意
- 当日は激しい運動・重い物を持つ動作は避けてください
- 入浴は当日シャワー程度に(詳細は当日ご案内します)
- 2〜3日、麻酔が切れた後の痛みや重だるさが出ることがあります(鎮痛薬を処方します)
- まれに:感染・出血・迷走神経反射(気分不良)。発熱や痛みの悪化があればすぐご連絡ください
効果について
石灰がよく吸引できた場合、数日〜数週間で痛みが大きく軽減する方が多くいらっしゃいます。1回で取り切れない場合や、残った石灰が自然吸収されるのを待つ場合もあり、エコーで経過を確認しながらフォローします。効果には個人差があります。
よくある質問
Q. 治療は痛いですか?
局所麻酔をしっかり行うため、治療中の強い痛みはほとんどありません。針を進める際の圧迫感を感じる程度の方が多いです。
Q. 放っておくと どうなりますか?
自然に吸収されて治る方もいますが、痛みを繰り返したり、石灰が大きくなって肩の動きを妨げたりすることがあります。強い痛みを何度も繰り返す場合は治療をおすすめします。
Q. 保険はききますか?
はい。エコー検査・注射・穿刺吸引はいずれも健康保険の適用です。
Q. 仕事や家事はいつからできますか?
デスクワークや軽い家事は翌日から可能なことがほとんどです。重労働やスポーツは痛みの様子を見ながら、医師と相談して再開しましょう。
Q. 再発しますか?
同じ場所への再沈着はまれですが、別の腱に新たにできることはあります。気になる症状が出たら早めにエコーで確認しましょう。



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