サイレントマニピュレーションについて

このページは、肩が硬くなって動かない五十肩(拘縮期)に対して行うサイレント・マニピュレーション(エコーガイド下の神経ブロックを用いた肩の授動術)について、治療を受ける前に知っておいていただきたいことをまとめたものです。診察でのご説明とあわせてご覧ください。

1. どのような治療ですか?

麻酔で肩の痛みを止めた状態で、医師が肩を動かして、硬く縮んだ関節の袋(関節包)をはがして広げる治療です。

肩は、腕の骨の丸い先端(上腕骨頭)が肩甲骨の浅い受け皿にはまった、ボールと受け皿のような関節です。この骨どうしは関節包という袋でつながれていて、健康なときは薄くしなやかで、あらゆる方向になめらかに動きます。ところが五十肩では、この袋が異常に厚く硬く縮んでしまい、腕が上がらない・後ろに回らないといった動きの制限と痛みが起こります。

硬く縮んだ袋は、そのままでは自然に治るまでに1〜2年、ときにそれ以上かかり、その後も硬さが残る方が少なくありません。リハビリやお薬・注射でも改善しない場合に、この治療でいちど袋を全周にわたって(360度)ゆるめ、その後のリハビリにつなげます。切開はせず、外来で受けられます。

痛み 医師が肩を動かして袋をはがします
灰色=医師の手。麻酔で痛みを止めた状態(左上の「痛み」に×)で、縮んだ関節包をゆっくり広げます。

2. 「サイレント(silent)」とは?

この治療は、全身麻酔で眠らせるのではなく、意識のある(起きた)状態で行います。首の付け根にある神経に、エコー(超音波)で見ながら局所麻酔をして、肩と腕だけをしびれさせ、痛みを止めます。全身ではなく肩だけを、歯科で口の中を麻酔するときのように部分的に麻痺させるイメージです。

「サイレント(=静かな)」という名前は、縮んだ袋をはがすときに、大きな音や強い力で無理に剥がすのではなく、できるだけ静かに・ていねいに広げていくという考え方から来ています。日本で生まれ育った治療で、力任せではなく、細やかで丁寧な手技を大切にする、という思想が込められています。

3. 治療の前に、ご準備いただくこと

車・自転車は不可 送迎か公共交通機関で 前開きの服で 肩を出しやすい服装 三角巾は翌朝まで 寝るときも外さないで

治療のあと、腕はしばらく麻酔でしびれて自由に動かせません。安全のため、次の3つをお願いします。

  • お車・自転車の運転はできません。当日は、ご家族の送迎か、タクシー・公共交通機関でお越しください。
  • 前開きの服(シャツ・カーディガンなど)でお越しください。肩に注射をするため、肩を出しやすい服装をお願いします(女性の方は、キャミソールやタンクトップの上に半袖Tシャツなどがおすすめです)。
  • 治療後は三角巾で腕を保護します。帰宅後から翌朝まで、寝ている間も外さずに着けてください。

4. 当日の流れ

  1. 横向きに寝た姿勢で、エコーを見ながら首の付け根の神経(C5〜C7)に麻酔の注射(神経ブロック)をします。
  2. 続いてあお向けになり、肩の関節の中とまわりに、炎症を抑えるお薬(ステロイド)を注射します。これは治療後の腫れや痛みをやわらげ、リハビリを進めやすくするためです。
  3. 麻酔が効くまで約20分お待ちいただきます。この間、首の神経の近くにある横隔膜の神経も一時的に休むため、胸が重い・少し息がしづらいと感じることがあります。多くは心配のないもので、体を起こして座っていると楽になり、数時間で元に戻ります。
  4. 腕を動かしても痛みがないことを確認したら、医師が肩をあらゆる方向にゆっくり動かして、縮んだ袋を全周(360度)にわたって広げていきます。このとき「プチッ」「ポキッ」といった音や感覚があることがありますが、これは袋がうまくはがれているサインで、痛みはありません。
  5. 広がった動きを確認し、腕を三角巾で保護します。その日のうちに帰宅できます。麻酔は約12時間で自然に切れ、翌朝には感覚と動きが戻ります。三角巾は翌朝外して大丈夫です。

5. 痛みはありますか?

麻酔が十分に効いた状態で行うため、治療中に強い痛みを感じることはありません。肩を動かされる感覚や、袋がはがれる音・感覚を感じる方はいますが、我慢が必要なほどの痛みではありません。万が一、治療中に痛みを感じたときは、すぐにお伝えください。

麻酔が切れた後は、鈍い痛みや重だるさが数日続くことがあります。これは処方するお薬でやわらげられます。

6. 治療後がいちばん大切です — リハビリ

ここがいちばん大事なポイントです。 麻酔が切れて感覚が戻ったら、翌日からは腕を積極的に使ってかまいません。むしろ、日常の動作でどんどん使うことが回復につながります。せっかく広げた動きも、動かさずにいると元に戻ってしまいます。

とくに知っておいていただきたいのは、はがした袋は、治療後およそ8週間かけて治っていく過程で、再びくっつこうとするということです。この時期にリハビリを続けないと、また硬くなってしまうことがあります。

また、長く肩が動かせなかったことで、袋だけでなく肩まわりの筋肉もうまく働かなくなっていることが多く、袋を広げただけでは肩の機能は完全には戻りません。リハビリでは、単に伸ばすだけでなく、肩の筋肉(腱板)を働かせ直すトレーニングを行い、しっかり使える肩を取り戻していきます。担当のスタッフがサポートします。

7. どのくらい効果がありますか?

多くの方で、治療の直後から肩の動く範囲が大きく広がり、その効果は治療の1週間後・数か月後・1年後といった時点でも保たれることが報告されています。長い時間がかかっていた回復を、短期間で得られるのがこの治療の利点です。

ただし効果には個人差があります。約7%の方では、いったん良くなった肩が再び硬くなる(再発)ことがあり、その場合は、あらためて相談のうえ、もう一度この治療を行うことがあります。

8. 注意点とリスク

① 麻酔のお薬による症状(まれ): ごくまれに、麻酔のお薬が血液に多く入ってしまい、気分が悪くなる・ぼんやりする・落ち着かない、あるいは逆にお酒に酔ったような感じになることがあります(局所麻酔薬中毒)。万一に備えて、解毒のためのお薬(脂肪の点滴)を常に準備しています。エコーで確認しながら少量ずつ注射するため、この合併症はまれです。
② 袋を広げきれない場合(まれ): 袋の縮みがとても強いと、安全に十分広げきれないことがあります。無理をすると骨折や脱臼の危険があるため、その場合は途中で中止します。とくに体格のよい男性で拘縮が非常に強い場合に起こりやすく、そのときは関節鏡の手術など別の方法を相談します。
③ その他: まれに骨折・脱臼・腱の損傷などが起こりえます。これらを避けるため、腕の付け根近くを支えるなど安全に配慮して行います。骨がもろい方(重い骨粗しょう症)、肩に感染や骨折がある方、呼吸の機能が弱い方などには、この治療を行いません。

持病やお薬(とくに血をさらさらにするお薬)、これまでのケガや骨折については、事前に必ず主治医にお伝えください。治療後に発熱・強い腫れ・しびれの悪化などがあれば、すぐにご連絡ください。

9. 覚えておいていただきたいこと

1起きたまま、
痛みなく行います
首の神経に麻酔をして、肩と腕だけを一時的にしびれさせます
2切らずに
外来でできます
その日のうちに帰宅。麻酔は約12時間で切れ、翌朝には元に戻ります
3翌日からの
リハビリが決め手
広げた動きを定着させるため、積極的に腕を使い、リハビリを続けます
この治療が向いているかどうかは、肩の状態(炎症が落ち着いているか、硬さが主体か)や持病によって変わります。気になる点は、遠慮なく診察でご相談ください。
※この記事は、Omodani T. 「Silent Manipulation for Frozen Shoulder: A Narrative Review of Its Origins, Philosophy, and Technical Approach」(Asia Pacific Journal of Pain 2026)を参考に作成した、一般的な情報です。個別の診断・治療方針に代わるものではありません。

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