肉ばなれ

このページは、診察でお渡ししている資料(日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ「5. 肉離れ」)の内容を、図と復帰の目安で補足するものです。診察時のご説明とあわせてご覧ください。図はすべて当院で作成したものです。

1. 「肉離れ」とはどのケガ?

肉離れは、自分の筋肉が出した力で、筋肉が引き離されて傷つくケガです。

ひとくちに「筋肉のケガ」といっても、中身はいくつかに分かれます。ぶつけて痛いのか、自分の力で切れたのかで、治り方も気をつけることも変わります。

こむら返り 筋肉が強く縮んだまま固まった状態。切れてはいません
肉離れ 筋肉が引き離され、筋線維の一部が傷ついた状態
筋・腱の断裂 まれですが、完全に切れてしまうこともあります
筋挫傷(打撲) 外から強くぶつけられて、筋肉の中で出血した状態。肉離れとは別のケガです

左の3つは自分の筋力で起こるケガ、いちばん右は外からの力で起こるケガです。同じ「もも裏が痛い」でも、原因が違えば対応が変わります。

2. なぜ起こるのか — 「伸ばされながら力を出す」瞬間

筋肉は、細い筋線維の束がたがい違いにかみ合って、縮むことで力を出しています。ゴム紐と同じで、伸ばされながら縮もうとするとき、いちばん大きな力が生まれます。この力に筋線維が負けたときに起こるのが肉離れです。

引き伸ばす 外からの力 縮もうとする 自分の筋力 ここが裂ける
上下に引き伸ばされながら、筋肉自身は縮もうとしています。この綱引きに負けたところが裂けます。

起こりやすい場面

ダッシュの一歩脚を前に振り出し、地面につく直前
急な切り返し方向転換でブレーキをかけたとき
ジャンプの着地体重を受け止める瞬間
キック・踏み込み全力で脚を振る動作

前ぶれなく「ブチッ」「バチンと叩かれた感じ」がして、その場で走れなくなるのが典型的です。

3. 起こりやすい場所

後ろから 前から もも裏(ハムストリング) 肉離れ全体のおよそ4割。最も多い ふくらはぎ(腓腹筋) 「テニスレッグ」とも呼ばれます もも前(大腿四頭筋) キック動作やダッシュで
左=後ろから見た脚、右=前から見た脚です。このほか内転筋(内もも)にも起こります。ふくらはぎの肉離れは、テニスの踏み込みで起こることが多いため「テニスレッグ」とも呼ばれます。

4. 重症度は「伸ばしたときの痛み」でわかります

押した痛みより、ストレッチしたときの痛みのほうが重症度をよく表します。

診察でお渡ししている学会の資料も、この「ストレッチ痛」で重症度をみる方法を紹介しています。ご自宅でも経過の目安になりますので、やり方を載せておきます。

もも裏 / 仰向けで脚を上げる 70° 30° もも前 / うつ伏せで膝を曲げる 90° 45°
軽症中等症重症
角度はあくまで目安です。いずれも力を抜いて、人にゆっくり動かしてもらいます。自分で反動をつけて伸ばさないでください。
部位軽症中等症重症
もも裏
ハムストリング
仰向けで脚を上げてもらう
70°以上上げても痛くない 70°〜30°で痛みが出る 30°も上げられない
もも前
大腿四頭筋
うつ伏せで膝を曲げてもらう
90°以上曲げても痛くない 90°〜45°で痛みが出る 45°も曲げられない
ふくらはぎ
腓腹筋
自分で立って行う
ストレッチの痛みが軽い 膝を曲げていればストレッチ痛が軽い 膝を曲げても痛む/つま先立ちができない
痛い手前で止めてください。 我慢して伸ばすと、治りかけの組織をもう一度傷めます。ここでの「痛みが出る角度」は、無理に確かめるものではなく、日ごとに角度が広がっていくかどうかを見るためのものです。

5. エコー(超音波)で何がわかるか

当院では、初診時とその後の経過でエコーを当てて確認しています。エコーはその場ですぐ見られて、何度でも繰り返せるのが利点です。痛い場所にプローブを当てながら、痛みの出どころを一緒に確認できます。

正常な筋肉 肉離れ
正常白い線(腱膜)が規則正しく並び、途切れていません
肉離れ黒い部分=出血・血腫。白い線(腱膜)が途切れています
エコーでは、傷んだところにたまった出血(黒く見えます)と、腱膜(けんまく/白い線)がつながっているかを見ます。この2つが、次に説明する重症度の分かれ目になります。
MRIとの使い分け。 次に説明する型の分類は、もともとMRIを基準に作られたものです。エコーはMRIの代わりではなく、その場での見立てと、その後の治り具合をこまめに追うのに向いています。重症が疑われるときや、復帰の時期をきちんと見きわめたいときは、MRIをお勧めすることがあります。

6. 重症度の分類(JISS分類)と復帰の目安

スポーツの現場では、どこが傷んだかで肉離れを3つの型に分ける方法が広く使われています。国立スポーツ科学センター(JISS)の奥脇医師が提唱したもので、型によって復帰までの期間が大きく変わるのが特徴です。

傷んだ場所画像で見えること復帰の目安
I型
筋線維部
筋肉そのもの(筋線維の間)。腱膜には傷がない 出血やむくみだけが見える およそ1〜2週
II型
筋腱移行部
筋肉と腱のつなぎ目(腱膜)。肉離れの典型で最も多い 腱膜のまわりに出血。傷み方によって腱膜が部分的に、または完全に切れる およそ4〜6週
程度により1〜12週と幅あり
III型
筋腱付着部
腱が骨につく部分。腱が切れる、または骨からはがれる 腱の断裂・骨からの剥離 3か月以上
手術を検討することがあります

※ II型・III型はさらに、腱膜の傷み方で1度(わずか)・2度(部分的に切れる)・3度(完全に切れる)の3段階に分けられます。同じ「II型」でも、1度と3度では復帰までの期間が数週間変わります。

実際のデータでは。 国内の報告では、I型で平均1.6週、II型で平均4.9週で競技復帰しています。別の施設のハムストリング肉離れ33例の報告では、ランニングなど部分的な練習の再開まで I型15日/II型21.5日ダッシュを含む全体練習への復帰まで I型29日/II型34.5日でした。
数字はあくまで目安です。 同じ型でも、傷んだ範囲・年齢・競技・これまでの再発歴で経過は変わります。日付で復帰を決めるのではなく、次に書く「復帰の条件」を満たしたかどうかで判断してください。

7. 治療の流れ

重症度に応じて、安静・湿布・ぬり薬・のみ薬などを使い分けます。松葉杖や装具が必要になることもあります。マッサージやストレッチは治療にも予防にも大切ですが、始める時期とやり方が重要です。自己判断で早く始めず、指導を受けてください。

STEP 1受傷直後冷やす・圧迫する・脚を上げる。まずは安静に
STEP 2痛みが引いたら痛くない範囲でのストレッチ。日常生活を普通に
STEP 3筋力を戻す軽い力から。伸ばしながら耐える運動へ段階的に
STEP 4走る・切り返すジョグ→ランニング→方向転換→ダッシュの順に
STEP 5競技復帰全体練習に合流し、試合へ

受傷直後にもんだり温めたりすると、出血が広がることがあります。最初の数日は冷やして圧迫するのが基本です。

8. スポーツ復帰の条件

ジャンプ・ダッシュを再開してよいのは、反対側と同じ伸び方に戻ってからです。

  • 痛みがないこと。 押しても痛くない・伸ばしても痛くない・力を入れても痛くない。この3つがそろっていることを確認します。
  • 左右で伸び方が同じこと。 ストレッチしたときの感覚が、健康なほうの脚と同じ「普通に伸ばされている感じ」になるまで待ちます。
  • 筋力が戻っていること。 本格的に競技をしている方は、始める前に脚の太さや筋力を測ってもらってください。左右の筋力のアンバランスは再発の原因になります。
再発しやすいケガです。 ハムストリングの肉離れは約3分の1が再発するとされ、最も再発しやすいのは復帰してから2週間以内です。「もう痛くないから」と一気に戻さず、段階を踏んで負荷を上げてください。ここを急ぐと、結果的に離脱期間が長くなります。

9. くり返さないために

気をつけること理由
ウォームアップを十分に冷えた筋肉は伸びにくく、急な力に対応できません
疲れているときは無理をしない筋疲労は肉離れの危険因子のひとつです
左右差・前後のバランスを整えるもも前ともも裏の筋力バランスの崩れが再発につながります
伸ばしながら耐える運動を続けるハムストリングを伸ばしながら鍛える練習は、再発予防に有効とされています
ストレッチを習慣に柔軟性の低下も危険因子です。指導を受けたやり方で続けてください

10. 大切なこと

肉離れは「治った感じ」と「治っている」がずれやすいケガです。 痛みは数日で軽くなりますが、傷んだ腱膜が修復するにはもっと時間がかかります。だからこそ、日数ではなくストレッチ痛と筋力で復帰を決めることが、再発を防ぐいちばんの近道です。気になる点は遠慮なく診察でご相談ください。
日本スポーツ整形外科学会 スポーツ損傷シリーズ「5. 肉離れ」(PDF) 診察でお渡ししている資料そのものです。ご自宅でも学会の公式サイトからご覧いただけます(外部リンク・PDFが開きます) 患者さん向け解説ライブラリ ほかの部位・病気の解説はこちらからお選びいただけます

※このページは一般的な医学情報であり、個別の診断・治療方針に代わるものではありません。症状の程度や競技によって適切な対応は変わります。気になる症状があるときは整形外科でご相談ください。→ 免責事項

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